西暦3000年

今は昔、日出ずる国にドーナツの形をした実があったそうだ。
なんでも、噂によるとポアンカレという数学者がその実を見て発狂したと伝えられる、数学的に見ても、生物学的に見ても不思議な、そして奇怪な実だったのじゃそうじゃ。
というのもな、ドーナツ状になっておると、あとから真ん中に穴が開くとしても、その穴の表面に皮ができないといけなく、あとからぐにゃと曲がって一方がもう一方に接続を試みるとしても、皮が一回破けぬといけぬという不具合が生じおる。
世界各国から学者が集められ、その実の解明が行われたというわけじゃ。
だがな、その実は10年に一度しか実をつけぬうえ、実をつけるときは10秒とかからぬものだからビデオもないその時代、研究は困難を究めおったそうじゃ。
ある者はそれを「神の実」となづけ、またある者は「進化の可能性」という。
ところがある日、その実は突然に滅びた。かの、ペレリマン博士がポアンカレ予想を完全に証明してしまったからの。その実は存在が不可能となった。
かうして、この実の物語はこうして語り継がれているという話じゃ。